梅毒とは、梅毒トレポネーマという細菌に感染することで発症する性感染症です。
昔から世界中で蔓延している病気で、かつては「不治の病」と恐れられていました。
感染者とのあらゆる性行為などによって感染する他に、母親から新生児へと母子感染することもあります。
長期間かけて症状が進行していくことが特徴で、長年放置していると死に至ることもある恐ろしい病気です。
近年では重症化するケースは稀ですが、悪化や感染拡大を防ぐためにも適切な検査や治療を行うことが大切です。
梅毒は1940年代に「ペニシリン」という特効薬が見つることで流行は抑えられ、感染者数は劇的に減少したとされています。
しかし、1999年には全世界で推定1200万人以上の新規感染が確認されていて、実に90%は発展途上国での感染とされています。
また、ここ最近で梅毒に感染している人は一気に増加しています。
しかも2016年の7月の時点で、感染者数は2000人を超えているので梅毒の流行に歯止めが利かない状態に陥っています。
(※2016年の梅毒への感染者数は4440件と発表されました。)
しかも女性の感染者の内訳では、半数以上が明るい未来がある20代ということが分かっています。
梅毒は新生児への影響もあることから男性はもちろんですが、妊娠を経験する女性も早めの梅毒治療が大切です。
梅毒は治らない病気とされてきましたが、ペニシリンという特効薬ができたおかげで治療することができます。
また「病院で医師に性器を見せたくない」と恥ずかしさや抵抗感を持つ人でも、自宅で個人的に検査する梅毒セルフテストもあるので、不安な人は検査キットで検査してみると良いでしょう。
もし陽性反応が出たのであれば、梅毒治療薬であるペニシリン系の「ビクシリン」やそのジェネリック、あるいは同じ性感染症の淋病にも効果がある「サワシリン」を使って早期に治療をはじめましょう。
梅毒の症状を知る前に、まずは潜伏期間やウィンドウ期間について解説します。
- 潜伏期間・・・1週間~3ヶ月
- ウィンドウ期間・・・2~12週間
ウィンドウ期間は、細菌やウィルスに感染してから検査が可能になるまでの期間となっています。
潜伏期間を経過すると、梅毒の症状が現れるようになります。
他の性病と違い、梅毒の症状は「第1期(3週間)」「第2期(3ヶ月)」「第3期(3年)」「第4期(末期)」と変化していきます。
第1期(3週間経過)
しこり
性器や口、肛門など感染した場所に、しこり(初期硬結)ができます。
このしこりは小豆くらいの大きさにまでなり、硬さは軟骨くらいになります。
徐々に進行していくと、しこりの中心部分が硬くなります。
ちなみに、痛みはありません。
またしこりが「潰瘍」になることもあり、この潰瘍を「硬性下疳」と呼びます。
リンパ節の腫れ
太ももあたりの付け根にあるリンパ節が腫れるようにもなります。
どちらの症状も、放置しておくと2~3週間ほどで消えてしまいます。
リンパ節の中で細菌は増殖するので不快感を伴うことはほとんどなく、自分が梅毒に感染していると気付くのが難しいとされています。
特に男性より女性の方が自覚しにくいと言われています。
第2期(3ヶ月経過)
原因細菌「梅毒トレポネーマ」が血液の中に入り、全身へと広がっていきます。
バラ疹
バラ疹は、第2期の中で一番最初に全身に見られる症状です。
バラの花びらを撒き散らしたような発疹が全身に現れるようになります。
「痛み」「かゆみ」などの症状はなく、数週間で消えるとされます。
梅毒性丘疹
バラ疹が消えた後に、梅毒性丘疹が皮膚に現れることが多いです。
およそ1cmほどのワイン色をした隆起(隆起)となります。
触れば硬く、少し光沢があるのが特徴の症状です。
ちなみに梅毒性丘疹も全身に見られます。
扁平コンジローマ
扁平(へんぺい)コンジローマは梅毒性丘疹が、次のような湿り気がある場所にできた時に見られます。
・肛門
・陰部
・脇の下
・乳房の下
小豆くらいの大きさの扁平に隆起し、柔らかい丘疹や裂肛(切れ痔)に似た傷をつくります。
また表面が白く盛り上がり、そこから分泌物がでるのが特徴となります。
同じ性病に「尖形(せんけい)コンジローマ」がありますが、まったく別の症状になるので注意してください。
第2期はさまざまな発疹が全身に現れ、他の病気の症状ともとても良く似ています。
医師でも判断が付かないことがあるようです。
その他の症状
「梅毒性脱毛」といって、毛髪が抜ける症状が現れることもあります。
また、リンパ節の腫れが影響して「扁桃炎」になることがあります。
加えて、「発熱」「頭痛」「倦怠感」などの症状が現れるケースもあります。
梅毒トレポネーマの感染力は、この第2期がもっとも強いと考えられています。
人によってはこういった症状が現れたり、消えたりを繰り返してしまうことがあります。
ほとんどの人は第2期までで感染を自覚することができ梅毒治療を開始するので、この後の第3・4期と進行することはほとんどありません。
第3期(3年経過)
結節性梅毒ゴム腫
全身に硬いコブのようなゴム腫ができるようになります。
放置すると自然に消えていきますが、ゴム腫があった場所には跡が残ってしまいます。
ゴム腫は何度でも繰り返し現れるので、からだ中に跡が残り外見がひどい状態になってしまいます。
鼻の骨にゴム腫ができた場合には鼻の骨が崩れてしまい、江戸時代の川柳でも読まれる「鼻が落ちる」と呼ばれる状態になります。
~先天性梅毒について~
先天性梅毒は、妊娠中あるいは出産時にお母さんから赤ちゃんに梅毒を感染させてしまうことです。
多くは死産や流産になってしまいますが、無事に出生した場合には第1・2期を経過しているとされ、第3期から発症してしまいます。
妊娠中の場合には、妊娠検査が定期的に行われるはずなので母子感染することは減っています。
しかし、まったくない訳ではありません。
性病は生まれてくる子供にも影響することがあるので、妊娠の予定がある男女は検査と治療は忘れずに行ってください。
第4期(10年以上経過)
梅毒の原因トレポネーマは、次のようなところにも現れます。
・脳
・中枢神経
・脊髄
・心臓
こういった人の命にかかわる臓器にまで、梅毒はその進行を広げます。
「神経梅毒」「脳梅毒」と呼ばれる状態になり、その症状はとても重いです。
進行性マヒによって、誇大妄想や言語に障害、判断不能状態など痴呆症状が現れます。
また脊髄が侵されると、足に激しい痛みが現れるようになり、歩行困難になります。
あらゆる場所に梅毒トラポネーマが広がり、日常生活が困難となっていき最後は死に至ります。
第3・4期まで入ることはほとんどありませんが、梅毒は最悪は死につながる危険な性病であることはきちんと認識しておく必要があります。
梅毒の原因となっている細菌は「梅毒トレポネーマ」と呼ばれるものです。
実はこの細菌は「偽装の達人」と呼ばれています。
重い皮膚症状以外にも、さまざまな病気を引き起こすことから、この呼び名が付いたと考えられています。
梅毒トレポネーマには、2つの特徴があります。
- 酸素が薄い(低酸素状態)ところでしか生きられない
- 温度が低いところや、乾燥しているところでは生きられない
つまり人のからだは、梅毒トレポネーマにとって条件の整った住処になります。
ちなみに試験管の中などで培養することができないので、病原性に関してはほとんど解明されていません。
また、理由は分かっていませんが「ウサギの睾丸」では培養できることが分かっています。
梅毒トレポネーマの特徴から、感染経路はある程度まで限定されています。
これら以外でも、病変が口唇にあった場合には「キス」などで感染することもあります。
また産道感染や母子感染といってお腹の中の赤ちゃんに感染するケースもあり、これを「先天性梅毒」と呼びます。
また輸血から感染することもあり、採取した血液の検査が潜伏期間と重なり「陽性反応」がでずに感染していたケースもあります。
現在行われている検査では検査期間が短縮されたものの、いまだに感染するリスクはあるとされています。
ちなみに日常生活において、衣類・食器・トイレ(便座)・お風呂などから感染することは不可能だとされています。
というのも、梅毒トレポネーマはからだの外に出てしまうと、あっという間に死んでしまうからです。
いたずらに感染者を避ける必要もなく、あくまでも感染者と粘膜同士が接触する性行為などは避けるようにしてください。
また、感染した場合には必ず抗生物質を使った梅毒治療が必要になります。
梅毒の歴史は、日本よりも海外の歴史の方が更に古いと考えられています。
日本での梅毒の流行は、今から500年近く前のことになります。
1512年江戸時代に梅毒が発見され、吉原など遊郭(ゆうかく)を中心に大流行しました。
治療する方法がなかったことから、鼻が欠けてしまうなど皮膚に重い症状が現れるなどして、10年以上の時間をかけて人のからだを蝕んでいきました。
最後には神経症状などが現れ、死に至ってしまうケースも珍しくはなかったとされ「不治の病」として恐れられていました。
~坂本龍馬は梅毒だった?!~
日本のテレビドラマ「JIN-仁-」でも登場したのが有名な坂本龍馬です。
このドラマでは「梅毒」についても放送していましたね。
1つの俗説ですが、坂本龍馬は梅毒に犯されていたなんて話があります。
それが分かるものに「兆民先生」という幸徳秋水の著書の中に、ある一文が書き記されています。
「(坂本龍馬は)梅毒のために髪が後退し額が古くなった」
梅毒でみられる脱毛症状はいわば虫食い状態になります。
そうなると、生え際の後退はAGA(男性型脱毛症)だっとも考えることができます。
あくまでも俗説ですが、坂本龍馬は梅毒に侵されていたと考えている人はいるようです。
海外での歴史に目を向けると、1492年にコロンブスが新大陸(アメリカ大陸)を発見し、原住民の風土病(梅毒)がヨーロッパに伝わったとされています。
当時は梅毒のことを「悪魔のお土産」と呼んでいたそうです。
またこの当時、ヨーロッパでは戦争がいくつも行われていました。
「梅毒は敵国が持ち込んだもの」として、国によって梅毒の呼び名は異なっていました。
イギリス・・・フランス病
フランス・・・ナポリ病
イタリア・・・スペイン病
ポルトガル・・・カスチリア病(カスチリアはスペインのこと)
ロシア・・・ポーランド病
ポーランド・・・ロシア病
敵国に対する思惑が見てとれる名前となっています。
ちなみに、その後も梅毒は世界中に蔓延していき、その蔓延のスピードはマゼランが世界一周するよりも早かったそうです。
~梅毒でなくなった著名人~
イングランドの王様だったヘンリー8世という人物は、頭脳明晰、運動神経抜群な王様で、英国至上最高のインテリとも言われています。
一方で、暴君としても有名で自分に必要のないと感じた人は処刑したり財産を没収したり好き放題だったという話もあります。
また"性"に関しても好き放題で、ヘンリー8世は死ぬまでに奥さんは6人も変わっています。
結局、最後は全身が梅毒に犯されて亡くなったとされています。
また、ドイツ人の作曲家としては誰もが知る「ベートヴェン」や「シューベルト」も梅毒に苦しめられていたと言われています。
今も昔もですが、多くの人とからだの関係をもつことは、梅毒に限らずさまざまな性病に感染するリスクを高めてしまいます。
梅毒の治療薬がある現在は、しっかり予防と治療を行っていかなければなりません。