不安障害はその症状によっていくつかに分類されます。
不安障害の治療には、どの不安障害に該当しているかを知って治療に当たることが必要です。
以下に代表的な不安障害の種類をご紹介します。
不安障害
不安障害とはパニック障害や社会不安障害などの強い不安を持ってしまう精神病のことをいいます。種類や治療方法、原因について解説します。
不安障害の一覧
不安障害とは
不安障害とは、"不安"が異常に高まってしまうことで日常生活に支障をきたしてしまうメンタルヘルスになります。
以前まで不安障害は「神経症」や「不安神経症」などと呼ばれていたこともありますが、最近では"障害"という言葉が患者さんへの偏見や誤解につながるとされ、「不安症」と呼ぶことも増えてきました。
ひとことで不安障害といっても、その概念はとても広いです。
不安障害は「総称」であり、その中にはさまざまな疾患があります。
「はじめにいった精神科では不安障害と言われ、2つの目の病院ではパニック障害と診断されました。」
最初に受診した病院と2つ目に受診した病院とで意見が割れているようにも思えますが、実はこれは同じ診断です。
というのも、不安障害の中にあるのが"パニック障害"であり、これも1つの疾患となります。
このようにさまざまな疾患が不安障害の中には含まれているので、誤解してしまう人も少なくありません。
また不安障害という名前から"不安"だけが症状のようにも思えますが、"恐怖"も対象となっています。
不安と恐怖どちらも似ていますが、正確には異なります。
「不安」・・・漠然としていて、"特定の対象がない"恐れの感情
「恐怖」・・・"はっきりとした対象がある"恐れの感情
例をあげるとこの2つの違いがより分かりやすいかも知れません。
不安障害の中に含まれる「社会不安障害」ですが、これは「社会」というとても広いものに対しての漠然としたものに恐れを抱きます。
一方で「高所恐怖症」は、「高いところが怖い」という特定の状況に恐れを抱きます。
このように2つの言葉は似ていますが、対象を特定できるかできないかで大きく異なります。
不安障害はこの不安と恐怖が異常に高まることで、精神的に苦しんでしまい、生活にも支障が生じる疾患となります。
これを踏まえた上で、不安障害に分類されるいくつかの疾患を簡単に解説していきます。
不安障害の種類
全般性不安障害(全般不安症)
全般性不安障害は、"特定の対象がない"持続的な不安を特徴としています。
数ヶ月以上にもわたって異常な不安が続くことから、日常生活に支障をきたしてしまいます。
また全般性不安障害は病気ではなく「心配性な人」として、1つの性格の傾向だと誤解されることがあります。
しかし、性格と病気は大きく異なります。
心配性の人は確かに性格ですが、あくまでも正常な範囲内になるので生活に支障がでることはありません。
ですが全般性不安障害の場合には、異常な不安が慢性的に続いてしまうので仕事や家事ができなくなることや、眠れなくなってしまい生活に支障がでます。
パニック障害(パニック症)
パニック障害とは、突然に"パニック発作"が起こる疾患です。
発作によって自律神経症状が現れます。
不安が高まる状況で発作は起きやすいですが、安静にしている時でも突然発作に襲われることがあります。
パニック発作が突然生じるようになると、「また起こったらどうしよう」と不安になり生活が困難になります。
重症化してしまうと、発作の恐怖から外出することすらままならなくなります。
社会不安障害(社交不安症・社交恐怖症・社交不安障害)
社会不安障害は、人前で話す状況や食事など特定の状況や社会的な交流から症状が現れます。
赤面したり、発汗、会話困難などからだに症状が現れるのも特徴です。
他人から注目を浴びるかもしれない状況において強い恐怖を感じることから、そういった状況を避けるか、ストレスを抱えながら耐えるようになります。
症状が強くなってしまうことで、仕事などの社会活動ができなくなることや人に会うことに恐怖を感じ外出できなくなることもあります。
恐怖症(限局性恐怖症)
特定の状況に対してのみ、過剰な恐怖を感じます。
恐怖症といってもその種類はいくつもあり、比較的知られているのが以下のような疾患です。
■閉所恐怖症
"閉ざされた場所"に過剰な恐怖を感じる
■高所恐怖症
"高い場所"に過剰な恐怖を感じる
■先端恐怖症
"鋭いものや尖ったもの"に過剰な恐怖を感じる
■対人恐怖症
"人"に過剰な恐怖を感じる
■男性恐怖症・女性恐怖症
"男性・女性"に対して過剰な恐怖を感じる
■動物恐怖症
"特定の動物"に過剰な恐怖を感じる
■集合体恐怖症
"ブツブツしたもの"に過剰な恐怖を感じる
■嘔吐恐怖症
"自分あるいは他人が吐くこと"に過剰な恐怖を感じる
不安障害の治療方法
不安障害の治療方法は、2つあります。
- 薬による治療
- 精神療法
薬の服用だけで治療することもありますが、場合によっては精神療法と併用して治療することが大切です。
また、不安障害の症状を悪化させるような生活習慣がある場合、それを正していくことも治療の1つと言えます。
薬による治療
不安障害に用いられる薬は、次の3つがあげられます。
- 抗うつ剤
- 抗不安薬
- 漢方薬
不安障害はセロトニンの影響が大きいと考えられていることから、抗うつ剤は特に"セロトニン"を増やしてくれる作用に優れるものが選択されます。
抗うつ剤は即効性はないものの、少しずつ不安を改善していってくれます。
また、抗不安薬は「ベンゾジアゼピン系」の薬が選択されることが多いです。
この系統は即効性が期待できるものが多く、早いものだと15~20分ほどで効き目が現れる薬もあります。
抗うつ剤とは違い、不安が強くなってきた時に服用することですぐに不安を改善できるのが利点です。
漢方薬は、その種類によっては不安を和らげることからできる作用があり、症状によっては漢方薬を用いることがあります。
抗うつ剤や抗不安薬に比べると、その作用が穏やかです。
パニック障害や社会不安障害、恐怖症などそれぞれの症状に合わせて使うことが大切になります。
精神療法
薬による治療と同じくらい大切なのが精神療法です。
さまざまな方法があり、代表的なものが次のような治療方法です。
- 認知行動療法
- 暴露療法
- 森田療法
これら治療の再発予防効果は、薬よりも優れているとの報告もあります。
薬のようにすぐに効果を期待することはできず、早くても数ヶ月かかります。
しかし続けることで、高い効果を発揮してくれるようになります。
はじめの治療は不安障害の症状を落ち着かせるために薬の服用、そして症状が落ち着きだしたら精神療法も併用するのが理想だとされています。
不安障害の原因
不安障害にはいくつもの分類がありますが、一体なぜ、不安障害になってしまうのでしょうか。
この原因は、必ずしも1つであるとは限りません。
一般的にはいくつかの要素が重なり合った結果、過剰な不安を抱くようになると考えられています。
不安障害の要因となるものとして、次のようなことがあげられます。
性格
ストレス
過去の不安・恐怖体験
遺伝
注目すべきは"うつ病"と同じく、不安障害になりやすい性格傾向があるということです。
「心配性」「完璧主義」「神経質」「こだわりが強い」など、こういった性格な人は不安障害を発症しやすい傾向にあると言われています。
またストレスは精神疾患とは切っても切れない関係にあります。
大きなストレスや慢性的にストレスを感じていると、普段にくらべてこころにも余裕がなくなってきます。
すると、些細なことでも感情的になりやすく、同時に不安を感じやすくなります。
過去の体験とは、トラウマなどが良い例かも知れません。
「人前で大恥をかいた」という経験によって、社会不安障害を発症してしまう人はいます。
また幼少期などに虐待や暴力を受けていた人も、常に不安や恐怖と隣合わせにあったことから不安障害を発症しやすくなります。
最後の遺伝ですが、必ずしも影響が大きいとは言えませんが、自身の家系内に不安障害を発症した人が多いケースでは家系に少ない人とくらべやや発症しやすくなると考えられています。
不安障害は全体的に小児期~思春期にかけて発症しやすいと言われている精神疾患です。
幼い時の方が、大人にくらべて感覚が敏感であることが影響しているとされています。
不安障害と脳の働き
人が感じる"不安"や"恐怖"は、脳の中にある「扁桃体」と呼ばれている部位が感じ取ると言われています。
簡単に説明すると、次のようになります。
扁桃体が"不安"や"恐怖"を察知
↓
するとストレスホルモンの分泌がはじまり、全身の筋肉が活性化されます。
↓
筋肉が活性化されることで運動能力が高まり、すばやく逃げることができます。
↓
"不安"や"恐怖"が去ると、ストレスホルモンの分泌が治まります。
このことから扁桃体のはたらきは危険察知に対しての重要な働きをすることや、同時に感情をつかさどる神経回路として重要な器官となっています。
不安障害の人はこの扁桃体のはたらきが強くなっているとも言われ、不安に関係している物質「セロトニン」や「GABA(Yアミノ酪酸)」の働きが活発になり過ぎてしまい、過剰な不安や恐怖を抱くようになるとされています。
遺伝的に扁桃体のはたらきが低い病気として「ウィリアムズ症候群」というものがあります。
症状としては、おおらかで不安を感じにくいということが知られています。
過剰な不安を抱く不安障害とは反対の疾患ですが、セロトニンを増やしてくれるSSRIという抗うつ剤やGABAを強めてくれるベンゾジアゼピン系の抗不安薬は不安障害にも効果を発揮することから、同じく物質のはたらきに原因があることを示しています。
また「ノルアドレナリン」という神経物質も不安障害には影響しているとされ、不安障害の1つであるパニック障害では次のようなことがわかっています。
ノルアドレナリンを増やすヨヒンビン投与 → パニック発作を起こす
ノルアドレナリンを減らすカタプレス投与 → パニック発作が起きにくくなる
このことからノルアドレナリンの影響も考えられ、脳や神経物質のはたらきが不安障害の原因にもなっています。
不安障害とうつ病の違い
うつ病は気分障害の一種で気分が落ち込んだり行動する意欲が失われた状態が長く続きます。
具体的には以下のような症状があらわれます。
- 何をしても楽しくない何をしても無意味だと考えてしまう
- 食欲が出ない
- 将来のことを考えると全て失敗してしまう気がする
- 何をしても疲れが残っている感じがする
- とにかくだるい体が重たくて動く気がしない
特徴としては特にからだに症状が現れるわけではなく、気分に症状が現れます。
一方、不安障害は前述のようにからだに発作的症状が現れたりする特徴があります。