統合失調症とは、日本では2002年まで"精神分裂病"と呼ばれていたメンタルヘルスの1つになります。
およそ100人に1人が発症する病気と考えられていて、誰もが身近に発症する可能性が高い病気になります。
また統合失調症の入院患者数はメンタルヘルスの中ではもっとも多く、およそ20万人もの人が入院しています。
その症状からは「急に叫び出す」「ブツブツと独り言を言う」「なにをしでかすか分からない」なんてイメージが強いかも知れません。
しかしそのイメージは統合失調症のほんの一部のイメージにしか過ぎません。
"治らない病気"と考える人もいるかも知れませんが、他の病気と同じく治療はでき、回復すれば社会復帰することもできます。
早期治療が大切で、早ければ早いほど慢性化や悪化を防ぐ可能性は高まっていきます。
ここでは統合失調症の原因や症状、他にも治療の方法などを解説していきます。
統合失調症の治療は、2つの方法で進めていきます。
統合失調症の治療の場は「外来治療」と「入院治療」に分かれますが、どちらの場合でも治療方法は変わりません。
薬物療法
薬物療法には、抗精神病薬が用いられます。
急性期(陽性症状が目立つ時期)には薬物療法が主体となり、抗精神病薬には代表的な陽性症状である幻覚や妄想の改善効果があります。
具体的には"幻覚や妄想への関心が無くなる"ことで、統合失調症患者さんの心をリラックスさせてくれるのです。
また、抗精神病薬には幻覚や妄想の再発を予防する効果もあるため、症状が落ち着いてからも減薬をしながら服用を継続していくことが基本となります。
実際に用いられる治療薬は、2種類に分かれます。
- 定型抗精神病薬 ・・・ 古い抗精神病薬
- 非定型抗精神病薬 ・・・ 比較的新しい抗精神病薬
定型抗精神病薬にはコントミン、非定型抗精神病薬にはエビリファイやロナセンなどがあります。
また、エビリファイのジェネリック医薬品にはアリピゾルやアリップMTがあり、こちらは通販でも購入できます。
心理社会的療法
心理社会的療法は患者さん自身の病気への理解を深め、同時に社会復帰に向けたリハビリを行っていく方法です。
陰性症状や認知機能障害の改善に効果的とされ、以下の方法が代表的な治療方法となります。
統合失調症の治療は症状を抑えた上で、患者さんの社会復帰を実現することが目的です。
そのため、薬物療法と心理社会的療法を並行していくことが大切になります。
統合失調症の診断基準は2つあります。
WHO(世界保健機構)が発表している「ICD-10」とアメリカ精神医学会が発表している「DSM-Ⅳ」になります。
わかりやすいのは「DSM-Ⅳ」になるので、アメリカ精神医学会の診断基準をご紹介します。
DSM-Ⅳ
次にあげる項目の2つ以上が"1ヶ月以上"続いている場合には、統合失調症である可能性が高いです。
1.妄想 |
2.幻覚 |
3.解体した会話(文法的に通じない会話) |
4.ひどく解体した行動(例:頻繁に泣く、不適切な服装など)または緊張病性の行動(筋肉の硬直による興奮や昏迷などの症状) |
5.陰性症状
・社会的または職業的な機能の低下
・障害の持続的な徴候が少なくとも"6ヶ月"存在する |
統合失調症のもっとも目立つ症状は「妄想」と「幻覚」になります。
しかし必ずしも症状が現れる訳ではないので、不安に思うことがあれば専門医に相談することをお勧めします。
統合失調症の症状は、大きく分けて3つになります。
陽性症状 ・・・ 幻覚や妄想など
陰性症状 ・・・ 感情表現が乏しい、あるいは意欲の低下など
認知機能障害 ・・・ 日常の生活を困難にする
すべての症状が現れることはなく、人によってさまざまな症状が現れます。
陽性症状
陽性症状は、統合失調症の特徴的な症状で、「本来ないはずのものがある様に感じる」症状の総称になっています。
ないはずのものがある様に感じてしまう"幻覚"や"妄想"といった「思考障害」の症状が現れます。
思考障害には、大きく分けて2つあり「思考"過程"の障害」と「思考"内容"の障害」になります。
思考過程の障害
思考過程の異常とは、物事を考える過程で、その道筋や脈絡そのものに異常が見られます。
○思考途絶
考える(思考)ことを急に中断したり、停止してしまいます。
そのため話をしていると、内容を突然忘れてしまったり、急に黙ったり、話し出したりします。
思考障害の代表的な症状であり、患者さんは「自分の考えが盗まれる」「考えが奪い取られる(思考奪取)」などと感じます。
○思考制止
ものごとを考えるスピードが落ちたり、思考が停滞する症状です。
「頭がからっぽ」「頭の中に考えが浮かばない」などと感じます。
○観念奔逸
次から次へと頭の中に観念が湧き出し、話が脱線します。
多くの人が早口になり、多弁になります。
○自生思考
考えやイメージが自分の意思に反して、次々と思い浮かんできます。
まとまりの無い内容が多く、本人は苦痛を感じます。
○滅裂思考
考えがあちこちに飛んでしまい、言っていることが支離滅裂になります。
「思考途絶」と同じく、統合失調症の代表的な症状です。
○思考迂遠
結論にたどり着くまでに時間がかかり、話が回りくどくなります。
○連合弛緩
関連性のないことが次々に頭に思い浮かんでしまい、話にまとまりがなくなります。
○思考保持
同じ言葉が繰り返し現れるようになり、思考が先に進まない状態になります。
思考内容の障害
思考内容の障害には、統合失調症の代表的な症状である「幻覚」や「妄想」などが現れます。
幻覚
幻覚は実際にはないものがあるように感じてしまうことです。
視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚など、五感を通じてさまざまな感覚に幻覚が現れます。
中でも、もっとも多いとされるのが「幻聴」です。
他の人には聞こえず、患者さんだけに聞こえる実在しない声は"悪口"や"噂"、あるいは誰かに"命令"されているように聞こえます。
人によっては"テレパシー"や"電波"などを感じることもあります。
また他にも次のような幻覚が起こります。
幻視 ・・・ 目に見える幻覚
幻味 ・・・ 味を感じる幻覚
幻嗅 ・・・ 匂いを感じる幻覚
体感幻覚 ・・・ 感じないものを感じる幻覚
妄想
妄想とは、一般的には考えられない非現実的なことや、あり得ないことを信じ込んでしまうことです。
特に多く見られるのが「被害妄想」です。
「自分の悪口を言われている」「騙されている」などが代表的です。
他にも妄想の種類はいくつもあり、次のようになります。
妄想の種類 |
症状 |
関係妄想 |
自分の周囲に起こる出来事すべてを自分と関連付ける |
注察妄想 |
常に誰かに見張られていると思い込んでしまう |
追跡妄想 |
誰からに追われていると思い込んでしまう |
心気妄想 |
自分は重い病気だと思い込んでしまう |
誇大妄想 |
実際の自分の状況よりも自分は偉大、裕福だ、などと思い込んでしまう |
宗教妄想 |
自分を神だと思い込んでしまう |
嫉妬妄想 |
恋人や配偶者が不貞(浮気など)をしていると思い込んでしまう |
恋愛妄想 |
異性から愛されていると思い込んでしまう |
被毒妄想 |
飲み物や食べ物に毒が入っていると思い込んでしまう |
血統妄想 |
自分は家柄や地位が高い家の隠し子だと思い込んでしまう |
家族否認妄想 |
自分の家族は本当の家族ではないと思い込んでしまう |
物理的被影響妄想 |
電磁波などで攻撃されていると思い込んでしまう |
妄想気分 |
自分の周りでただ事ではないことが起こっていると思い込んでしまう |
世界没落体験 |
「妄想気分」の中に含まれ、世界が今にも破滅すると思い込んでしまう |
こういった妄想がすべて1人の統合失調症患者さんにみられるのは稀とされています。
人によっては、1種類から複数種類の"妄想"が重なり合うことはあります。
陰性症状
陰性症状は、"陽性症状"とは反対に「本来あるはずのものがなくなってしまう」というのが特徴の症状になります。
・無為自閉 ・・・ こもりがちになり、活動性が低下してしまう
・感情平板化(感情鈍麻) ・・・ 感情の表現が乏しくなる
・意欲減退 ・・・ やる気がなくなる
このように本来、人として持っているはずのものがなくなることから陽性症状は「貧困症候群」や「欠陥症状」と呼ばれることもあります。
無為自閉
無為自閉は、人との関わりを持たなくなり(自閉)、やる気が起きなくなってしまう(無為)症状になります。
具体的な例をあげると、次のようなことが起こるようになります。
- 仕事や家事を一切しない
- 自分からは人と会おうとしない
- 会話が成立しない
- お風呂に入らない
- おかしな笑い方をする
"人間らしさ"が失われてしまい、人格の荒廃とも言える状態です。
感情平板化(感情鈍麻)
感情平板化は、単に気分が落ち込んだり、高揚するなどではありません。
本来、誰にでもある喜怒哀楽などの"感情"の表現が乏しくなります。
他人と目を合わせることもなくなり、表情に動きがなくなります。
気持ちを共感することもできなくなるので、すべてに関心を失っているように見えます。
意欲減退
意欲減退は、意欲や気力といったものがなくなってしまう症状になります。
これは「うつ病」にも見られる症状ですが、統合失調症はうつ病とは異なります。
うつ病では意欲減退が起こっても「なんとかしないと」という気持ちは残っています。
しかし、統合失調症の場合には「なんとかしないと」という気持ちの焦りもありません。
認知機能障害
認知機能とは、次のようなことです。
こういった基本的な知的な能力を指しています。
健康な人は、この"認知機能"を無意識にでも働かせています。
しかし、統合失調症になると認知機能が低下します。
基本的な知的機能が低下してしまうことで、仕事や家事、勉強など社会生活に大きな支障がでます。
統合失調症患者さんの多くが感じているとされる「生きづらさ」というのは、この認知機能障害の影響であると考えられています。
統合失調症の原因は、未だに明らかにはなっていません。
原因の報告はあるものの、いずれも仮説の域を超えるものではないです。
しかも仮説の数は何百という数になり、特定の原因をみつけるのはとても難しいとされ、精神医学の限界・壁であるとされています。
特定の原因は不明なものの、いくつかの有力な説があります。
・原因の2/3は遺伝要因
・神経伝達物質の異常
・ストレスなどの環境要因
特定の原因が不明ですが、「抗精神病薬」や「ドーパミン拮抗薬」などで統合失調症の症状を抑えることは可能と考えられています。