糖尿病とは
生活習慣病の1つである糖尿病とはインスリンというホルモン分泌が低下することで、血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が慢性的に続いてしまう病気となります。
"ブドウ糖"とは、人が活動するために必要なエネルギーの源であり、食事から摂取した"糖質"が胃や腸の中で分解されることでブドウ糖となります。
ブドウ糖が血液の流れに乗って全身に運ばれていき、膵臓(すいぞう)から分泌される「インスリン」と呼ばれるホルモンのはたらきによって細胞に取り込まれていき、人の活動のエネルギーとして消費されます。
エネルギーとして使われず余ったブドウ糖は、同じくインスリンによって脂肪としてからだに蓄積されます。
ブドウ糖は人にとって重要なエネルギー物質であり、それをサポートするインスリンのはたらきもとても重要となります。
しかし、糖尿病はインスリンが分泌される量が少ないことや、うまく働かないことでブドウ糖が有効に使われなくなってしまいます。
すると血液中にブドウ糖が溢れた状態となりブドウ糖の濃度、つまり血糖値が高い状態となってしまいます。
この状態が糖尿病であり、高血糖状態が続いてしまうと、血管や神経などが侵されてしまいからだにさまざまな障害を起こすようになります。
糖尿病の治療方法
糖尿病の治療は、大きく分けて3つの治療方法があります。
これら3つがどんな治療方法になるのか、解説します。
薬物療法
糖尿病の薬物療法は、用いる治療薬の種類によってさらに3つに分けることができます。
- αグルコシダーゼ阻害薬 ・・・ 食後の血糖値上昇を抑える薬
- スルホニル尿素薬(SU薬) ・・・ 膵臓を刺激しインスリンの分泌を高める薬
- インスリン抵抗性改善薬 ・・・ インスリンの働きが悪い状態を改善する薬
糖尿病は食事や運動だけの治療で治らないこともあります。
なので糖尿病治療薬と併せて、食事療法や運動療法を取り入れていくようにして下さい。
食事療法
糖尿病にかかっている患者さんあるいは予備軍の方の多くは、肥満が多いとされています。
肥満体型の方は食べ過ぎや飲み過ぎといった"暴飲暴食"が影響してしまっているのは確かなことです。
からだに負担をかけてしまうような過度な糖分などの栄養摂取は、控えなければなりません。
一般的に食事療法として目安となるカロリーが1日1600kcal以内となり、さらに栄養のバランスを整えることが大切です。
今まで習慣づいた食生活をガラッと大きく変えることはとても難しいので、家族や周囲の方の強力、そして自分で糖尿病を治すという強い志が必要になります。
運動療法
糖尿病を引き起こす原因の中に"運動不足"があります。
適度な運動を毎日の生活の中に取り入れることで、インスリンの効果が高まるとも言われています。
激しい運動は時にからだに悪影響を及ぼすことがあるので、足や膝、腰などに負担が少ない適度な運動を続けるようにして下さい。
糖尿病の診断基準
食事に含まれる糖質が大きく関係するのが糖尿病です。
食事をした後であれば、健康な人でも一時的に血糖値は上昇します。
しかしインスリンのはたらきによって、上昇した血糖値は次第に低下していきます。
糖尿病を診断する時は、食事によって変動する血糖値の測定タイミングを3つにわけて行います。
随時血糖検査
随時血糖検査とは、食事をした後に時間を決めないで採血を行い血糖値を測定します。
この検査によって、血糖値が200mg/dL以上である場合には「糖尿病型」と診断されます。
早朝空腹時血糖検査
早朝空腹時血糖検査は、検査日当日に朝食を抜いて空腹の状態で採血を行って血糖値を図る検査になります。
早朝空腹時血糖値が126mg/dL以上である場合には「糖尿病型」と診断されます。
75gOGTT
75gOGTTは75g経口ブドウ糖負荷試験とも呼ばれるもので、検査当日の朝まで10時間以上絶食して状態で採血を行って血糖値を測定する検査になります。
そして次に、ブドウ糖液(水に75gのブドウ糖を溶かしたもの)を飲んでもらい、ブドウ糖負荷後に30分・1時間・2時間おきに採血を再び行います。
75gOGTTで2時間値が200mg/dL以上である場合には、「糖尿病型」と診断されます。
ただしこの検査は、自覚症状などから明らかに高血糖状態である人に対して行うと高血糖状態となるリスクを伴うので糖尿病検査としては必須とはされていません。
この3つの検査でいずれか1つでも血糖値に異常が見られた場合、「糖尿病型」と診断されます。
また別の日に再検査を行い、再び血糖値に異常が見られれば"糖尿病"と診断されます。
~糖尿病診断基準まとめ~
検査名 |
血糖値 |
随時血糖検査 |
200mg/dL |
早朝空腹時血糖検査 |
126mg/dL以上 |
75gOGTT |
200mg/dL以上 |
※HbA1c(JDS値) ※採血の時点から過去約1~2ヶ月間の平均的な血糖値を反映する検査値 |
6.1%以上 |
糖尿病の原因と種類
糖尿病といってもその種類は、3つに分けることができます。
・1型糖尿病
・2型糖尿病
・妊娠糖尿病
厚生労働省の発表によれば、男性の約6人に1人、女性の約11人に1人が"2型糖尿病"と言われています。
また糖尿病全体をみても、2型糖尿病が糖尿病患者さんの95%の割合を占めていると言われています。
1型糖尿病
1型糖尿病(インスリン依存型)は、自己免疫疾患などが原因となって発症するとされています。
生活習慣病はかつては"成人病"と呼ばれていたこともあるので、この中に含まれる糖尿病は中高年がかかりやすいイメージがありますが、1型糖尿病には子どもや若者に多いのが特徴となっています。
自己免疫に異常が生じてしまうことで、自分の細胞を自分で攻撃してしまうようになります。
するとインスリンの分泌にかかわる膵臓の「β細胞」が破壊されてしまい、インスリンを分泌するのが難しくなってしまいます。
2型糖尿病
2型糖尿病(インスリン非依存型)は、遺伝的に糖尿病になりやすい体質の人が食べ過ぎや運動不足、肥満あるいはストレスなどが原因となって発症するとされています。
インスリンの分泌量が低下することや、効果があまりなくなってしまうようになります。
すると、血液内でブドウ糖が消費されにくくなってしまい、慢性的に高血糖状態が続いてしまうようになります。
2型糖尿病は、日本人の糖尿病患者さんの大部分を占めており、中高年代に多いのも特徴です。
好きなものだけを食べるといった偏った食事は、いずれ糖尿病になってしまうリスクを高める行為となってしまいます。
「若いから大丈夫!!」ではなく、日頃の積み重ねが糖尿病予防へとつながっていくはずです。
妊娠糖尿病
1型糖尿病や2型糖尿病以外に起こるのが、この妊娠糖尿病です。
妊娠してからお腹の中の胎児が成長するにつれて、母体である母親は多くのエネルギー(ブドウ糖)を胎児に供給しなければなりません。
なので胎盤ではインスリンを抑えるはたらきのあるホルモン「プロラクチン」や「プロゲステロン」、他にもインスリンを分解する酵素なども分泌されるようになります。
このことから妊娠の中期以降になると、インスリンの効き目が悪くなってしまい血糖値が上昇してしまうようになり妊娠糖尿病を発症することがあります。
糖尿病の症状
糖尿病にかかったはじめの段階で自覚症状はほとんどないと言われています。
次第に進行していくことで、次のような症状が現れるようになります。
尿の量・回数が増える
血糖値が高くなっている状態では、腎臓が水分といっしょに血液中のブドウ糖を排泄しようとします。
これによって尿の回数や量が増えるような症状が現れます。
ノドが渇く
尿排泄の回数や量が増えることで、からだの水分はどんどん少なくなっていきます。
すると「ノドが渇く」症状が現れるようになります。
ノドが渇いたからといって、炭酸飲料やジュースなど糖分が多く含まれる飲料をたくさん飲んでしまうと、糖尿病はさらに悪化するので注意です。
痩せていく
血液中にあるブドウ糖の本来のはたらきは、細胞に取り込まれることでからだのエネルギーの源になります。
しかし、糖尿病患者さんは血液中のブドウ糖をうまく取り込むことができません。
するとエネルギーが不足するので、からだに蓄積されている脂肪や筋肉を分解しエネルギーとして消費されるようになります。
なので、食べても体重が低下していき痩せていくようになります。
疲れやだるさ
ブドウ糖をエネルギーとしてうまく活用することができないので、からだはエネルギー不足の状態となっています。
この影響で、全身に疲れやだるさを感じるようになってきます。
このような自覚症状が現れている場合には、糖尿病はかなり進行している可能性があります。
糖尿病と合併症
糖尿病が進行することで、血液中に溢れたブドウ糖がからだ中の血管を蝕んでいくことでさまざまな合併症を引き起こします。
特に多い合併症が、次の3つになります。
・糖尿病神経障害
・糖尿病網膜症
・糖尿病腎症
これら3つの合併症は、「糖尿病の3大合併症」と呼ばれています。
糖尿病神経障害
3大合併症の中でもっとも早く症状が現れると言われていて、自覚症状も早い段階から現れるのが特徴です。
糖尿病によって高血糖状態がつづいてしまうと、神経障害の原因となる「ソルビトール」という物質がからだの中で作られるようになります。
このソルビトールが"末端神経"の細胞に蓄積されることで糖尿病神経障害を起こすと考えられています。
末端神経には、人が生きていく上で必要なさまざまな神経が集まっています。
○運動神経 ・・・ からだを動かすように司令する神経
○知覚神経 ・・・ 痛みあるいは温度などを感じる神経
○自律神経 ・・・ 呼吸や体温、他にも血流や内蔵のはたらきを自動でコントロールする神経
糖尿病神経障害によって、どの神経に障害が起こるかによって自覚症状も変わると言われています。
運動神経障害
運動神経が麻痺してしまうことで、筋力の低下がみられることや顔の神経が麻痺(顔面神経麻痺)することがあります。
また目がピクピクしたり、寄り目になってしまう症状なども見られます。
知覚神経障害
知覚神経が麻痺することで、手や足にしびれが起きることや痛みなどの感覚が鈍くなってしまいます。
足の感覚が鈍くなってしまうと、少しの怪我や火傷などにも気づきにくくなり、もし悪化すれば組織が腐ってしまい足の切断になることがあります。
自律神経障害
ほてりや発汗異常、吐き気、食欲不振、下痢・便秘、尿が出にくくなるなどの症状が現れるようになります。
また男性は器質性EDといって、勃起に障害を起こす可能性があります。
糖尿病網膜症
ブドウ糖が増えすぎてしまうことで、目の網膜にある毛細血管が損傷することがあります。
血管がつまったり、変形してしまう、あるいはそれによって出血を起こす症状が見られます。
しかも進行すると、極端に視力を落としてしまうことや視界に黒いものがちらつく、物が二重に三重になって見えるなどの症状が現れるようになり、そのまま放置してしまうと最後には失明の恐れもあります。
糖尿病腎症
尿をつくる工場の役割をしている腎臓には毛細血管で構成された毛糸玉のような「糸球体」があります。
この糸球体は、血液をろ過するはたらきを担っています。
糖尿病腎症になると、高血糖状態によって糸球体の毛細血管が硬くなってしまいます。
すると、血液をろ過する機能が低下してしまい、老廃物や余分な水分がからだの中にたまってしまうようになることや、からだにとって必要な物質が排泄されてしまうようになります。
また発症の初期に自覚症状がないのも特徴です。
糖尿病腎症が進行すれば、全身にむくみが現れるようになり、吐き気や疲れやすさなどが症状として現れます。
悪化すると、腎臓の機能がまったく機能しなくなってしまうので、「人工透析」が必要となってしまいます。
このように糖尿病の3大合併症はどれも日常生活を困難にしてしまうものばかりです。
糖尿病にならないための予防・対策はもちろんですが、糖尿病を発症している人は悪化させないための治療が必ず必要となります。